積極的な事業拡大を推し進めてきたコムスン(グッドウィル・グループ)が、指定訪問介護サービス事業の法令(運営基準等)違反を元に、全居宅介護事業の譲渡(撤退)を余儀無くされましたが、このコムスン社のつまずき及びその事業譲渡をめぐる動きは、改正後の指定訪問介護サービス事業の経営環境の厳しさを物語るとともに、これからの訪問介護サービスの担い手を占う上で多くの示唆を与えています。
【コムスン事業の継承をめぐって】
訪問介護サービス市場に参入している事業者は、経営規模的にみて、地域密着の地場型事業者と株式を公開(上場)し全国また広域展開を行っている以下の企業に大別されます。
大手企業;コムスン(グッドウィル・グループ)、ニチイ学館
準大手企業;ジャパンケアサービス、ツクイ、セントケア・ホールディング、ケア21
なかでもグッドウィル・グループは、介護保険の導入にあわせ、『24時間巡回』訪問介護サービス事業者として知られるコムスンを買収し、大規模投資により訪問介護事業の全国チェーン網を築き、さらにグループホーム、有料老人ホームへと多角化を図るなど、急成長する介護サービス市場の代表企業例と言っても過言ではありませんでした。
その事業譲渡(継承)をめぐって多数の事業者が名乗りをあげましたが、譲渡(買収)申込みが集中したのは有料老人ホーム、グループホームの居住系サービス事業で、訪問介護サービス事業については上記した大手、準大手を含めその他の上場介護サービス事業者の多くが消極的だと言えます。
結果的に居住系事業の多くはニチイ学館が継承、訪問介護事業など居宅サービスは利用者へのサービスの継続を最優先に考え都道府県毎の一括譲渡としたため、その多くは上記大手、準大手企業に譲渡されることになりました。
【訪問介護サービスと企業価値】
介護保険制度開始後の訪問介護サービス事業の成長戦略は、ひとことで言えばホームヘルプサービスニーズの掘起こしと登録ヘルパーを活用したサービス供給体制にあり、資金力のある企業ほど事業拡大のチャンスに恵まれていたと考えられます。また、介護保険サービスの普及・利用拡大のため運営基準、不適切サービスに対する行政の指導・監査もゆるかったことなども事業拡大に弾みをつけた一因でした。
しかし介護予防サービスの導入などにより改正後の訪問介護サービス市場が縮小するなか、その逆風は大手・準大手事業者にとっても例外ではなく、特に売上げ減による収支悪化の打撃は事業規模が大きいほど深刻だと思われ、訪問介護サービス事業を基盤とする企業ほど改正後の業績は悪化をみています。
他の居宅介護サービス事業に比べ訪問介護サービス事業の利益率は低く、このためコムスンはじめ公開(上場)企業はいずれもディサービス、グループホームさらに高収益が見込まれる有料老人ホームへと多角化を進めるなか、訪問介護事業については不採算事業所の整理・再編、また給付サービス適正化へむけた管理体制の強化が課題になっているのが実情です。
急成長から一転逆風となるなか、厳しい企業価値(利回り、配当、株価)競争にさらされている公開企業(投資家)にとって、訪問介護サービス事業は魅力ある事業分野とはいえないものになったといえます。
【これからの訪問介護サービスの担い手】
大手、準大手企業はそれぞれの経営戦略をもとにコムスン訪問介護事業の継承(買収)を行ったわけですが、厳しい事業環境からみて業績向上への寄与は短期的には難しく、逆に業績改善のための再編を余儀なくされる可能性が考えられます。
都道府県毎の事業(資産)の一括譲渡方式で、今回のコムスンショックに現れた訪問介護サービスの課題が解決されるとはいいがたく、生活・地域に密着したサービスである訪問介護事業の担い手として地場型事業者の役割が改めて重要になってくると思われます。