使命は 「利用者が求めるサービスを提供する」 こと
▲スタッフと朝の打ち合わせを行う鈴木さん。
―朝から忙しいそうですね。
鈴木さん:今日は透析をされている利用者さんのお迎えがあったんですよ。
―お迎えですか?
鈴木さん:隣接する山手医院のほうで定期的に透析を受けている方がいらっしゃるんです。その方の送迎を私たちが行っているんですよ。
―なるほど。
鈴木さん:利用者のご家族が通院介助を行う場合もありますが、老々介護などのように家庭の事情によってはそれが難しいケースもあります。そういった場合は私たちがお迎えにあがり、病院までお連れするんですよ。
▲鈴木さんの周りには笑顔が集まる。
―そういうことも介護サービスの一環なんですねー。
鈴木さん:ええ。でもね、透析を行っていらっしゃる利用者には、他にも専門的な気遣いが必要。だから、必要なサービスは送迎だけではないんですよ。
―例えば、どんなサービスが必要になるんですか?
鈴木さん:透析食の用意や、透析後の体調の把握などですね。
―「透析食」というのは何ですか?
鈴木さん:透析を受けていらっしゃる方とそうでない方とは、必要な栄養素が違うんですよ。
例えばお野菜。健康な人ならそのまま食べても何の問題もありませんが、透析を行っている方にはカリウムが多すぎることがあるんです。だから野菜を煮こぼしたりして、透析を行っている利用者にあった専用食を準備しなくちゃいけないんです。それが「透析食」です。
透析食を用意するには、ある程度専門的な知識が必要です。必要な栄養素はちゃんと摂って、不要なものは摂らないように考えて調理しなくちゃいけません。そうなると利用者のご家族だけでは対応できないので、私たちがご自宅に伺って食事をお作りするわけです。
―専門的な食事のケアまでとなるとかなり幅広いですね。
鈴木さん:確かにそうかもしれませんね。
でも、利用者やそのご家族が本当に求めるサービスを提供することが、私たちの使命ですから。
利用者のほとんどが介護度の高い方なんです
▲利用者宅でのカンファレンス。
―病院と連携が取れていると、利用者の方にとっては非常に便利ですよね。
鈴木さん: 山手医院との連携は、利用者からみると心強いでしょうね。私たちの事業所を利用される方々は、比較的介護度の高い方ばかり。純粋な生活援助は全体の3割程度で、それ以外はほとんどが身体介護なんですよ。
―身体介護、ですか?
鈴木さん:はい。一昔前なら病院の患者さんとして扱われていたような方が、今はご自宅で生活を送っています。だから、往診や訪問看護を必要とする方も多いんですね。それに、認知症が進行していて、コミュニケーションを取ることすら難しい利用者さんも少なくありません。リスクの高い利用者が多いので、私たちだけでなく、現場に出向くヘルパーさん達もとってもハードなんです。
―現場のヘルパーさん達にも相当なプレッシャーがかかりますね。
鈴木さん:そうなんです、責任重大なんですよ(笑)。
だからこそ、私たちは利用者やご家族、ケアマネージャーなど介護に関わる全ての方を集めてこまめにカンファレンスを開き、全体の意思を共有し、役割を確認するようにしています。
▲利用者やご家族に分かりやすい言葉で、カンファレンスを進める鈴木さん。
―毎回、全員で集まってカンファレンスを行うんですか?
鈴木さん:そうですよ。ヘルパーの方以外は基本的に全員参加します。ヘルパーさんが安心して働けるように、利用者やご家族の方も安心してサービスを利用することができるようにするには、全員が集まって話し合うのが一番いいんです。みんなでルールを決めて、みんなでそれを守るんです。後になって「こうすれば良かった」とか「ああすれば良かった」とか言っても、仕方がありませんからね。
在宅介護用の連絡ノートを用意して、家族とのやりとりや緊急時の連絡先などを全て書き込んでおいて、その情報をカンファレンスの際に全員で共有するんです。そうすることで、情報の確認と共有ができますからね。
―カンファレンスの時に気をつけていることはありますか?
鈴木さん:そうですね、難しい言葉や専門用語は使わないようにしています。あとは雰囲気ですね。
―雰囲気、ですか?
鈴木さん:和やかな雰囲気のカンファレンスだと、利用者やご家族も変な緊張感を覚えずに参加できます。そうすることで、普段聞けない本音が聞けたりすることもありますしね。そういった本音がポロっとでも出るようになるまでが大変なんですけれどね(笑)。
私たちが関わることで、老々介護の現場に 「光」 が入るんです
▲利用者のご家族:フキを煮てみたんだけど・・・。
お料理は初心者という利用者のご家族。
―今日は利用者様とご家族の許可を頂き利用者様のお宅に伺いましたが、話には聞いていたものの、老々介護を間近で見ると、やっぱり大変そうだなぁと思いますね。
鈴木さん:そうですね。年々症状は重くなっていきますしね。どちらかが寝たきりに近い状態だったりすると特に大変。若くて健康な人でも大変な介護を、連れ合いであるお年寄りがしなくちゃいけないんですから。どんなに元気でも、やはりお年寄です。不安にもなるでしょうし、ふさぎこんで前向きになれず、いつも「死にたい」とおっしゃる方も少なくありません。
―何だかやるせないお話ですね。
鈴木さん:近くにお孫さんなんかがいて、「孫が成人するまでは」とかっていう明確な目標でもあれば話は違うんでしょうが、高齢者だけの生活だとそういう目標をなかなか持てないんですよ。お互いに、刻一刻とカラダが思うように動かなくなって、自分のやりたいことすらできなくなってくる。何から何まで不安でいっぱいなんですよね。そんな状態だったら、何もかもが嫌になってしまってもおかしくない。だから「生きていてもしょうがない」、「何の楽しみもない」と、後ろ向きになってしまう気持ちも分からなくないんですよね。
―なるほど・・・。
鈴木さん:私たちだって何か楽しみがあるから働けるのであって、それがなければ働けないですよね。老々介護の高齢者には、そういう楽しみが少ないんですよ。生き甲斐というか、前向きになれる材料が少ないから、ただその1日を無事に暮らすことで精一杯になってしまう。でも、無責任なことは言えませんしね。「そんなにあわてたって、そう簡単にお迎えは来ないよ」って、笑顔で返してあげるより他にないんです。
▲鈴木さん:おいしい!初めてとは思えない!
とても和やかなやりとり。ご家族の顔にも笑みがこぼれる。
―切ないですね。
鈴木さん:だけどね、私たちが関わることで、変化のなかった高齢者の日常にささやかな光が入りだすと、それも少しずつ変わってきます。険しかった表情が穏やかになって、笑顔が増えてくるんです。そして、寝たきりだったはずの方が起き上がったり、ベッドから出て歩こうとしたり、ふさぎこんでいたご家族まで元気になったりするんですよ。それを見ると、「この仕事をやってて良かったな」って思うんです。
―カンファレンスの時に気をつけていることはありますか?
鈴木さん:そうですね、難しい言葉や専門用語は使わないようにしています。あとは雰囲気ですね。
―それが「やり甲斐」なんですか?
鈴木さん:そうですね。それまで寝たきりだった方が歩けるようになったりするんですよ、本当に。日々その変化を感じていると、こっちも負けてられないなぁって思うんですよね。そういういい関係を築くためにも、在宅介護の場合には、利用者だけでなくご家族とのコミュニケーションがとっても大切なんです。