楽しみとか喜びって、とても小さなものなんですよ
▲白衣と割烹着が並ぶ事業所内
―こちらの事業所には何名の訪問介護員がいらっしゃるんですか?
田久保さん:3名です。
―3名ですか?
田久保さん:ええ、少ないでしょう?(笑)
今は3名でできることを精一杯やっています。
私たちだからこそ出来ること、私たちにしか出来ないこと、そういうサービスを提供しています。
▲朝の打ち合わせを行う田久保さん
―大変そうですね。
田久保さん:楽ではないですね。ここは病院併設の事業所なので、介護度の高い利用者さんが多いですし。
―ますます、大変そうですね。
田久保さん:もう慣れちゃいました(笑)。でも、大変な分、喜びが大きいんですよ。
―介護職の難しさといえば、やはり人間関係だと思うんですが?
田久保さん:人と人とのコミュニケーションに絶対的な答えはありません。人間は機械とは違いますからね。
だから、新しい関係を築くとなればやっぱり大変です。関係を壊してしまうことはとっても簡単なんですけれどね。
―確かにそうですね。
田久保さん:馴れ合ってもいけない。かといって、事務的なのは寂しい。
だから、程よい距離感をずっと保っていかなくてはなりません。
利用さんひとりひとりに合わせて距離を調節していかなくてはいけないわけですから、面倒に思う人もいるでしょうね。
でも、それを楽しめるようにならないと、介護の仕事は長続きしませんね(笑)。
▲訪問のため出かける田久保さん
―楽しむ、ですか?
田久保さん:例えば、私がこう言ったら利用者さんはどう返してくるかな、なんて考えたり、反応を見たりしながら信頼関係を築いていくんです。これこそが介護の面白さであり、難しさでもあるわけですが、私はそういったことを楽しんでいます。
問題が起こった時には、それをどう乗り越えていこうかって考えなきゃならない。でも、苦しみながらも何とか乗り越えられたなーって思える時が必ず来ます。大きな手ごたえじゃないにしても、何らかの反応を感じる瞬間があるものなんですよ。そういうのが、私は楽しんです。
―ハードな仕事なのにそれを楽しめるって、凄いですね。
田久保さん:私の言う楽しみとか喜びって、とても小さなものなんですよ。何かを達成したというような大層なものではなくて、日常で例えるなら「上手に信号を渡れたな」ってレベルのことなんです。そんなささやかな喜びの積み重ねが、いつか大きな喜びとか楽しみになっていくんですよね。
▲ご利用者の体を起こす田久保さん
―介護職を始められた14年前に比べると、介護の世界も変わったでしょうね。
田久保さん:制度は大きく変わりましたね。
私は無資格から始めて3級ヘルパー、2級ヘルパーと順を追って資格を取得してきました。
当時は今とは違って、経験年数がないと資格が取れませんでしたから、そうやってひとつずつ経験を重ねるしかありませんでした。
だからそれぞれの資格証明書は、私にとって自分の経験そのものに対する証明書なんですよね。
私の経験も増え、資格制度の内容も少しずつ変わり、ようやく自分の経験と資格が一致してきたかなって思います。
でも、資格に対する国の流れも変わってきて、実務経験がなくても実習を受ければ資格が取れるようになりました。
だからでしょうか、こういう仕事をしようと思う人たちの気持ちも変わったんですよね。
―というと?
田久保さん:介護業界に入ってきた頃の私は、パートとして働いていました。
だからそこまで収入にこだわっていませんでした。子育ても落ち着いたし、介護にも興味があったので始めたんですよ。
経験を重ね、資格を取るごとに介護の仕事の奥深さに魅せられたというか。
だから今でも、収入よりも仕事としての面白さや楽しみのほうに興味があるんですよ。
でも、最近の方は労働力に対しての収入をしっかりと求めます。
収入の先にある生活というのをまずは考えているように思えるんです。
当然といえば当然のことなんでしょうけれど、純粋に「この仕事が好きだからやりたいんだ」っていう気持ちとはちょっと違うのかな、と思うことがありますね。
▲「体調はいかがですか?」ご利用者に話かける田久保さん
―「この仕事が好きだ」って思う基準をどこにおくのかによっても、価値観が変わってくる気がしますが?
田久保さん:確かにそうですね。どんな仕事が自分に合っているのかなんて、誰も分からないものかもしれません。
だから、私は「明日もこの仕事がしたい」と思うかどうかを基準にしています。
そう思えるってことは、その仕事が好きだってことでしょう?そう思いませんか?これはどんな仕事も同じじゃないですかね。