■障害者が主役、介助者はサポーター。
▲食器を洗う篠原さん。お皿洗いをすると、心もスーッとスッキリして良いのだとか。
―そもそも、CILとは何ですか?
篠原さん:自立生活センターのことで、「Center for Independent Living」を略してCILと呼んでいます。自立生活センターとは、どんなに重い障害を持つ人でも健常者と同じく地域で当たり前に自立した生活ができるように、自立生活支援やその権利の擁護に関する事業活動を障害当事者が主体となって運営しているサービス提供機関のことです。
CILは全国各地にありますが、その中で多摩地域の8つの事業所が集まってできたのが社会福祉法人幹福祉会です。「ケア府中」は「CILふちゅう」から派遣部門を独立させた事業所で、幹福祉会の府中事業所になります。
―こちらではどのようなサービスを行っているのでしょうか?
篠原さん:「CILふちゅう」では、自立生活プログラム(ILP)や障害当事者どうしによるピア・カウンセリング、権利擁護活動、介助者の派遣事業、情報提供・各種相談などを行っています。ちょっと広義になるかもしれませんが、健常者とか障害者とか、そういうカテゴライズ抜きに、誰もがごく普通に当たり前のことをして生活ができる、そんな社会を目指した活動を行っているといえばいいでしょうか。そして「ケア府中」では日常生活に必要なヘルパー派遣業務、介助に関するコーディネート業務、相談業務を請け負っています。
―「自立生活プログラム」とはどういうものですか?
篠原さん:障害当事者が自立した生活を送るために必要な生活能力を引き出すためのプログラムです。
自立するということは「自分のために、自分らしく生きること」であり、「選択と責任の義務を負うこと」です。危険を冒すのも冒さないのも個人の意志による自由選択・決定ですが、その選択に対しての責任は全て自己で負わなければなりません。
でも、障害者の多くは親元で暮らすか施設で暮らすかのどちらかで、起きる時間や寝る時間、食べるものに至るまで施設や周囲の健常者のペースや都合で管理されていることが少なくありません。他者に生活を管理され毎日を過ごしてきた障害者にとって、親や施設と離れて暮らすことも自分で自分の生活を管理することも、実に見えにくいしイメージしずらい。だから、ある日突然自立を考えても、何をどうしたらいいのか分からず途方にくれてしまうことが多いんです。
障害者が自立するときに感じるハードルは健常者が思っている以上に高く、大きなプレッシャーも伴います。一度決めたら後戻りもできませんしね。障害当事者のそういった不安を少しでも解消し、自立生活を成功・維持させるために様々な支援を行っています。
▲利用者さんの外出準備をサポートする篠原さん。車椅子のポジション微調整はとても大切なのだとか。
―具体的にはどのような支援を行うのでしょうか?
篠原さん:支援内容は非常に幅広く、物件探しや住空間の環境整備の提案のほか、必要に応じて、金銭管理や公共の乗り物の利用法、ヘルパーとのコミュニケーションの取り方などのアドバイスも行います。
ここでの主役は障害当事者たちで、僕たち健常者職員・スタッフはあくまでもサポート役に過ぎません。サービスを決定するのも障害当事者ですし、利用者の相談に乗るカウンセラー(ピア・カウンセラー)も当然、障害当事者です。もちろん、健常者スタッフが中心になって利用者のサービスを決定することもありません。
―自立支援は、開始からどのくらいで落ち着くものなのでしょうか?
篠原さん:個人差はあると思いますが、生活が落ち着くまでにおおよそ1年くらいはかかると思います。利用者さんの中には過去を振り返って「契約後の数ヶ月間は毎日が戦争のようだった」とおっしゃる方もいらっしゃいますよ。
▲利用者さんの外出に伴い、駅方面に移動する篠原さん。
―そんなに大変なんですか?
篠原さん:利用者さんにとっても、ヘルパーにとっても全てが初めてのことですからね。考え方や価値観がまるで違うというケースも少なくありませんし、そりゃぁ大変です(笑)。例えば、1人の利用者さんに対し10人のヘルパーが関わるとなれば、利用者さんは知識や経験のまるで違う10人それぞれに同じことを教えなくてはいけません。だから1日に何度も同じこと言わなくてはならなかったり、疲れていてもヘルパーに指示を出し続けなくてはならなかったりします。ヘルパーによって理解度や受け止め方も違うので、それが均等になるのにはかなりの時間を必要とします。だから半年くらいはあっという間に過ぎてしまうのだと思います。
―一連の業務の中で、最も難しいと思うことは?
篠原さん:利用者さんとの会話と心のキャッチボール、でしょうね。これは身体的な介助なんかよりもはるかに難しい。その日の体調だったり気分だったり、天気だったり、いろんな要因で人の気持ちは刻々と変化しますし、一筋縄ではいきません。だからこそ面白いのかなとも思います。
僕は、互いが互いを理解しあうためにぶつかり合うことも、意見が衝突したまま解決しない感じも嫌いじゃないんですよ。そうやって起こしたアクションは、何年先になるのか分からないけれど、必ず何かしらの結果を生むと信じています。種を蒔かなきゃ芽は出ないけれど、蒔いた種からはいずれ芽が出ますからね。利用者とヘルパーたちが同じ方向を向いてさえいれば、トライ&エラーを繰り返しながらでもいいんじゃないかなって思います。