■キッカケは「割りのいいバイトだったから」
―そもそも、この業界に入ったキッカケは?
篠原さん: 学生の頃、同じサークル仲間から「夜中に寝返りをうつ手伝いをするだけの割のいいアルバイトがある」という話を聞いて興味を持ったのがキッカケです。単純に、破格のバイト代に目がくらんだというか・・・(笑)。
▲電車で移動中の篠原さん。普段はバイクや自転車で移動することが多いのだとか。
―すごく分かりやすい理由ですね。
篠原さん:そうでしょう、自分でもそう思います。本当に軽い気持ちで飛び込んじゃったんですよね。
当時はまだ障害者の訪問介護にヘルパーの資格は必須ではありませんでした。でも、最初に連絡した先でアルバイトをするにはヘルパー2級の資格が必要でした。「お金が欲しいからアルバイトを探しているのに、先行投資が必要ってどういうことだ?」って思って、そこはお断りしました。
でも、2回目に電話をした先は対応も良く、資格もいらないとのことでした。それで、面接を受けてみようと思ったんですよ。その時の求人元が、現在所属する事業所、というわけです。
―最初の一歩を踏み出した時の感想は?
篠原さん:それまで障害者との接点なんてありませんでしたからね。当時の私にとって、障害者は宇宙人のような存在でした。だから、アルバイトの面接当日、初めて電動車椅子に乗った所長の姿を見た時は、どうしていいのか分からなくて不安になりました。自分の中にある偏見を見破られる、見抜かれるって思ったんですよ。それが怖くて、僕は所長をちゃんと見ることすらできず、ただただ、電動車椅子のレバー部分だけを見つめて返事をしていました。
それでも所長は淡々と「ごはんは炊けるか?」、「味噌汁作れるか?」、「魚は焼けるか?」と質問してきました。僕がハイと応えると、所長は「じゃ、行こうか」と(笑)。
―思ったよりもあっさりしていた?
篠原さん:ええ。所長は答えるだけで精一杯の僕の気持ちに気付いていたと思いますが、そのことには一切触れませんでしたね。それに、本当は家事なんてほとんどやったことがなかったし、それもバレていたと思うんですよ。でも、障害者と関わることにまんざら興味がないわけでもなかったので、僕も調子良く「覚えます」なんて言っちゃって。結局、面接が終ってからそのまま車椅子の実習を受け、それが終わると「次はいつ来られる?」と聞かれて・・・。
▲訪問から戻って、記録などの事務作業を行う篠原さん。
―それ以来、ずっとこちらに?
篠原さん:そうです。最初の頃は利用者さんが何を考えているのか分からないし、何か言ったら怒られるんじゃないかとか、すぐに抗議をされそうだとか、自分自身の中に障害者に対する物凄い偏見がありましたね。「こんなことを言ったら傷つけちゃうのかなぁー」とか、「下手に関わらないほうがいいのかなー」なんてことを考えたりもしました。でも、ちゃんと関っていくうちに、僕の考え方が間違っているんだと気付いたんですよ。みんな、考えることは同じなんだって分かったんです。それが分かってから仕事がより一層楽しくなったし、世の中の見方も変りました。
―就職活動はしなかったんですか?
篠原さん:そうですね。周囲が就職活動を始めた頃、僕は介護以外に興味を持てることもありませんでしたし、目の前で起こっている出来事を放っておくこともできなくなっていました。それに、自分たちで環境を整えながら何かをやり遂げるというのは、とってもエキサイティングで楽しかったですしね。だから、今の事業所に就職することが自然なのかなって思うようになっていましたね。
―なるほど。
篠原さん:僕は人と接するのが好きなんですよ。特に介護業務のように、長い時間の中で関係を成熟させていくスタイルは僕の性に合っていると思います。だから続いているのかもしれません。
ヘルパー側が前向きに、積極的に関わっていけば、様々なヒントやアイデアが生まれます。でもそれは、利用者さんのことを人間として「好き」なことが前提です。利用者さんのことが好きだから、色々と誠意を尽くしたいと思うし、それを続けられると思うんですよね。そして、次第にその思いが利用者さんに通じるようになっていくんじゃないでしょうか。自分の思いが通じていると実感すること、利用者さんの生活の質が明らかに向上していると感じること―それが今の僕の喜びです。