■この仕事を楽しめるのは、「生きる」ことに直結しているから。
▲電話対応中の山本さん。
―介護の世界に入ったきっかけを教えてもらえますか?
山本さん:ハローワークで見かけたヘルパー募集の貼り紙がきっかけです。
前職は添乗員で旅行会社に30年以上務めていたのですが、子供も独立したし、これからは好きなように生きてみようと思い立って退職。はじめはオーストラリアで1年ほど暮らしたいと考えていたため、まずは失業保険の手続きにとハローワークに向かったんですよ。
―そこでヘルパー募集の貼り紙を見かけたんですね。
山本さん:ええ。ヘルパー1級の資格試験を受けられる職業訓練校「ポリテクセンター」の生徒募集の貼り紙がたまたま目に入ったんです。ハローワークの人には、「介護職はしんどいからね、50歳を過ぎてから始める仕事じゃないよ」と止められました(笑)。ですが、添乗員時代の経験から体力には自信があったので、即座に申し込みました。300人以上が応募して、そのうちの30人しか受からないという競争率で難関でしたが、面接と小論文の試験をなんとかパス。久々のスクール通いで、若い世代の方と一緒に授業を受けたりトイレ掃除するのが新鮮で楽しかったですよ。
▲「オアシス川西」の事業所の様子。
―卒業後は、すぐに就職を?
山本さん:はい、今の事業所に就職しました。最初は学校で教わったこと以外、介護業界のことは何も知らなかったので戸惑いましたね。事業所と利用者さんとの契約でサービスが行われていますが、以前は役所を通していましたから、“世話してあげる”という上から目線で対応している雰囲気があるなと何となく感じていました。正直のところ、あまり良い印象ではありませんでしたね(笑)。
―上から目線ですか?
山本さん:営業活動で名刺を配ってまわったら、上司から「サービス業じゃないんだから」と言われたんです。営業で育ってきた私には信じられないことで、大きなショックを受けたのを覚えています。
でも時間が経つごとに、よりよいサービスを提供しようという流れに少しずつ変わってきたように思います。
>▲利用者さん宅へ車で移動中の山本さん。
私は、きちんとした規律の中にも、利用者さんの立場となりサービスを提供することが大切だと日頃から感じています。明るくあいさつすることも、そのひとつです。利用者さんは何が好きなのか、どうしてほしいのかと考えて動く、些細な気配りって大事だと思いますね。
―山本さんが利用者さんに接するとき、工夫されていることはありますか?
山本さん:身近な物を使って、「手作り」することでしょうか。利用者さんのお宅によっては、十分に物がそろっていない場合もあります。例えばトイレを洗うブラシの置き場がなかったら、ペットボトルを再利用して場所を作ったり、寝たきりの利用者さんの体を清拭するための道具として空き容器を再利用したりと、専用の道具がなくても利用者さんが快適に過ごせる工夫をしていますね。
―では旅行会社時代の経験が活かされている、と思うことはありますか?
山本さん:アクシデントに強いことや、対応力があることでしょうか。添乗員時代は、突然のアクシデントに遭遇したり台風がきて飛行機が飛ばないといった、予期せぬ事態をたくさん経験してきました。利用者さんに接しているときも思わぬ出来事がいきなり起こりますが、そのようなとき慌てているヘルパーさんを落ち着かせて冷静に対応することには、慣れているかもしれません。それからバリエーション豊かな話題を提供できるのも、前職が活かされているところだと思います。国内は、ほぼ網羅していますから、利用者さんの田舎の話や旅行の思い出話など、たいていの話題についていけます。全国のおいしい食べものや風土・文化などの話を楽しんでもらえたときも、とても嬉しいですね。
利用者さんが笑ってくれると、こちらも元気になりますし、また頑張ろうという気になるんです。利用者さんとのふれ合いこそが、私のやりがいにつながっている気がしますね。
私がこれほどヘルパーを楽しめるのは、「生きる」ことに直結している仕事だからなんだろうと思います。