■私が見た独居者は孤独じゃない。近所や家族の助け合いがあります。
▲常に情報を共有できるようにと、ケアマネージャーとサービス提供責任者のデスクはひと部屋にまとまっている。
―こちらの事業所の周辺には、訪問介護の事業所が多いですね。
鈴木さん:もともと、このあたりに家政婦協会が多いことから、訪問介護に移行した事業所さんが多いようです。
―ご近所の事業所さんとの交流はあるんですか?
鈴木さん:地域や施設での講習会やセミナーなど交流の機会がありますので、参加させていただいています。どこの事業所さんも悩みは一緒ですから、介護保険や怪我をしたときの対応など、情報交換はできているかなと思いますね。最近ではインフルエンザ対策に関する集まりなどがありました。
―他の事業所さんとの関わりを持つことで得られるものとは何ですか?
鈴木さん:やはり事業所内だけにとどまらず外部の関係者と交流を持つことで、情報の鮮度を保てるというのはあるでしょう。私たちの事業所で担当している利用者さんのエリアは、文京区、台東区、荒川区、北区の4区にまたがっているので、地域ごとに違っている介護保険や利用者さんの様子というのが見えやすいかもしれません。
▲坂の多い地域のため、訪問先までの移動には、電動自転車が必須という。
―まず、地域ごとに違う介護保険とは?
鈴木さん:介護保険で統一されているように見えても、細かく見ていくと、実は区によってサービスの内容が少しずつ違います。例えば買い物同行では、同居家族の有無で同行が可能な地域と不可能な地域があるといったズレが少し前まで見られました。買い物同行が可能な地域は利用者さんの自立のためと理解を示してくれましたが、不可能な地域は、ご家族に買い物をする時間がなかったら宅配を利用するようにと言われました。
紙面上で見ると、大した差ではないように思われるんですけれど、実際の現場で個人に照らし合わせると、その小さな差がとても大きいんですよね。いつも家の中で過ごされている利用者さんにとっては、家の外に出て買い物をするという行動さえもご自身の刺激につながるので、とても貴重なイベントになるんです。
ですから、地域ごとのサービス内容の違いが利用者さんの生活を大きく左右しているという現状がよく見えますね。
―なるほど。では次に、地域ごとに見られる利用者さんの様子について教えてください。
鈴木さん:台東区などは下町の雰囲気がありますので、長年商売を営んでいらした親しみやすい雰囲気のある利用者さんが目立っていますし、文京区ですと、専業主婦をされてきたのんびり穏やかな方が多いです。どちらにも共通して見られるのは、何十年と同じ地に住まわれている利用者さんが多いので、困ったときには、ご近所の方同士で支え合っているということでしょうか。それから、独居の方というのも目立っていますね。
▲ケア終了後の利用者さんとの触れ合いも大切なひとときだ。
―なぜ独居の利用者さんが多いのですか?
鈴木さん:都内ですと、一軒のお宅の大きさが限られているという住宅環境の影響があるため、子どもさんと同居されている方が少ないんですね。しかし利用者さんによっては、お一人での暮らしが心配ですので、介護をするために、ご家族が利用者さん宅に寝泊りしているという姿も見かけられます。
都内だと、どうしても高齢者は寂しい独居生活をしていると思われがちですが、こうしたご近所づきあいやご家族の助け合う姿を見ていると、介護に明るい未来を感じます。