ヘルパーとご利用者さんとの関係性
技術だけでは前に進めないことがたくさんあります。
今回訪問させていただいたご利用者さん(漆山さん)の玄関。お花が咲き乱れていました。
―今日同行させていただいたALSのご利用者さんのケアでもそうでしたが、『猫の手』には吸引できるヘルパーが迫谷さん、長野さん含め9人ほどいらっしゃると伺いました。その実績と経験が口コミで広がり、今では、遠方からも「『猫の手』さんにお願いしたい」と依頼がくることもあるそうですね。
迫谷―はい。有難い話です。ALSや寝たきりのご利用者さんなど要介護度の重い方も結構いらっしゃいます。吸引できる強みももちろんありますが、どんなご利用者さんでも出来る限り対応しようという社長のモットーのもと、何十年も積み上げてきた信頼があるからこそ、そう言っていただけるんじゃないでしょうか。
手際よく吸引の準備をする迫谷さん。カテーテル(管)の消毒はしっかりと!
長野―他事業所で働くヘルパーさんの話を聞くと、身体介護はほとんどやっていません…という事業所もあるようです。サービスの種類が豊富なのも『猫の手』の魅力かもしれません。お掃除だけのご利用者さんから身体、吸引までと幅広く対応できますから。
―幅広いサービスがあるなかで、お二人はわりと介護度の重いご利用者さんへ訪問に行くことが多いとか。そういう方達のケアは、やはり通常のケアとは違いますか?
笑顔で漆山さんに話しかける長野さん。ケア中は常に色々なところに目を配ります。
長野―ALSのご利用者さんにおいていえば、言葉を発することができないので、文字盤を見ながらのコミュニケーションや顔の表情で「何を要求されているのかな?」と常に意識したり、吸引の際は痰の状態にあわせて管の入り方を調整したり…。そういう部分では、通常のケアと違って、技術や経験がより要求されるかもしれません。でも、この仕事って人間対人間の関わり合いなので、技術だけでは前に進めない場面が本当にたくさんあるんですよ。人間関係を築き上げてこそ、良いケアができるという意味では、どのご利用者さんも同じだと思います。
迫谷―そうそう。本当に人間って十人十色。
以前、私が担当したご利用者さんに、重役だったとかで何でも上から目線で命令してくる方がいたんです。車イスの位置も決まっていて、少しでもずれれば怒鳴るし、洗髪して滴がたれてくれば「全部ふけ!」と、とにかく怒鳴られっぱなし。他のヘルパーさんも皆同じ状況で、ある時我慢できず「自分で出来ることは自分でやりましょう」とお話したんです。それはもう、後から苦情が入って社長に怒られる覚悟でした(苦笑)。でも、数日たっても社長から呼び出しがない。「あれれ?」って…。何もないまま1週間後にまたケアに入ったら、その方から「迫谷さん、ありがとう」と言われたんです。「言われたことに感銘を受けたんだ」って。まさか「ありがとう」と言ってもらえるなんて思ってもみなかったので、言葉に表せないほど嬉しかったですね。それから植木の話などしながら打ち解けていって、車イスの位置がずれても「自分でなおしましょう」といえば「しょうがねぇなぁ…」と少しニヤニヤしながらおしてくれるようにまでなりました。ご利用者さんとの関係性に変化が見られたり、心を開いてくれた瞬間は、何にもかえがたい喜びです。
文字盤を使って会話を。微妙な目の動きを追っていきながらどの文字かを判断。
長野―私なんか手を触った途端、蹴飛ばされたこともありましたよ(苦笑)。そのご利用者さんは、何をするにも奥様じゃないとダメで、全身清拭や手の置き場所から洋服の着せ方まで全てやり方が決まっているんです。私達ヘルパーは奥様の手伝いをするのですが、一人でやらせていただける部分は最初1つもなくて…。でもそんな風に奥様が24時間つきっきりで介護しているといつか倒れてしまうかもしれない。介護って1年、2年のスパンではなく、長く続くわけですから。「もう少しヘルパーのできる部分を増やしていただかないと…。奥様が病気になって病院に入ることになった場合、一番辛い思いをされるのはご主人じゃないんですか?」とご利用者さんに時折お話したりして。それはもう本当に根気よく。徐々に任せていただけることが増えていって、今ようやく2年目で1時間奥様が側にいなくても大丈夫になりました。
―先ほどおっしゃっていた介護技術があっても人間関係が築けないと前に進めない、というのはこのことだったんですね。
元看護師の奥様と漆山さん。とてもステキなご夫婦の記念写真をパチリ!
長野―そうなんです! もちろん技術はベースにあってこそですよ。でも、ご利用者さん本人、それから家族の方、主たる介護者になっている方、それぞれとの信頼関係を築いていくことは何よりも大事な気がしますねぇ。
迫谷―本当にそうだと思います。