特養での13年間。
発想を転換して、いかに創意工夫していくかが大切。
事業所の横にはちょっとした広場が。大通りに面しているので交通の便も◎。
―下遠野さんは、高校卒業されてから19年、介護人生まっしぐらだそうですが、そもそも介護職に進まれたきっかけとは?
もともと身内に障害者がいたこともあり、幼少の頃から歩くときに手を貸したり…そうした動作がごく自然に身につく環境にいました。なんとなく興味がわいて、老人福祉施設と障害者施設のボランティアに参加したのが高校2年のとき。週末に施設を訪れておむつたたみやお茶くみ、利用者さんと談話するだけだったのですが、とにかくここでの経験が強烈でした! ハンデをもちながらも生きている方たちと触れ合うなかで「ずいぶん自分は小さな人間だな」と逆に得ることが多くて。とにかく、その日は心も体もポッカポカ。漠然とこんな風にあったかい気持ちで仕事ができたらいいな、と思ったのがきっかけですかね。
事務所までの階段に格言が数枚貼られています。「人生1度きり好きなように息抜き生きて。」
―学生時代の強烈な経験が下遠野さんを介護へと導いたんですね。卒業後は、まず特養で働かれたんですよね。
はい。無資格の状態で内定をいただき、とにかく右も左も分からない状態でのスタート。介護棟の入所サービスを担当しました。それから約13年お世話になりましたが、ローテーションになりがちなケアに、もっとご利用者さんの声に耳を傾けたいという心の葛藤が常にありまして。「ちょっと…」とご利用者さんに声をかけられてもゆっくり時間をとって聞いてあげることができず「またあとでね」と言ってそれっきり、とかよくありました。その状況をなんとか改善したいと上司によく物申してましたね。今思うとだいぶ生意気なことを言ってたと思います(苦笑)。
サービスから戻ってきたヘルパーさんと、気になるご利用者さんの様子などをしっかり申し送り!
―下遠野さんが、「もっとこうしたい」と上司に伝えることで周囲に何か変化はあったりしたんですか?
スタッフ全員の役割担当が各々決まっていて、それを1日のスケジュールにあわせてこなすのが精一杯。例えばお風呂担当になれば、午前中に20人ぐらいをひたすら入れ続けて、また午後も同じ人数が待っていたり。それぞれの要望を聞いていたらとてもじゃないけれど終わらない。ガチガチのスケジュールに全員が組み込まれているから、一人の意見に付き合っていられない感じはありましたね。でもご利用者さんが「ちょっと」と声をかけるのは用事があるから呼ぶんです。それを「なんだい?」って手を握って聞いてあげることのできない自分にはがゆさを感じることはよくありました。
大きなものも余裕で置けるほど広々とした事業所内。バリアフリーな空間です。
―それでも下遠野さんは特養に13年もいらっしゃって。またそこで介護福祉士、社会福祉主事を取得されたんですよね?
はい。ご利用者さんとじかに触れ合って、その場その場で経験してきたことが自分のなかで蓄積され「今だからこそ資格を!」という意欲がわいたのが6年目のときでした。「介護のプロになる」という明確なビジョンを意識しだしたのもこの時期でしょうか。周囲の後押しもあって必死に勉強して取得しました。
今までKSサービスで受講された生徒さんの写真。みんないい笑顔です。
―資格を取得されて何か気持ちに変化が芽生えたり?
自信をもてましたよね。6年も続ければある程度のケアテクニックは身につきます。でもそれに根拠をもって説明できるようになったのは資格を取得したから。どこか自分に自信がないなか半信半疑で物申していたからこそ、相手にも響かなかったんだと思います。それから間もなくしてユニットリーダーに昇格しました。ケアチームの親方ですよね。
記載もれがないかもこまめにチェック!ちなみにボールペンはKSサービスオリジナルのもの(笑)
―おっ! ようやく、自分で色々と環境改善できる立場になられたということですか?何か行動されたり?
ケアスタッフの業務時間変更やご利用者さんにアンケートをとることもしました。例えば、入浴であれば午前中がいいのか午後がいいのか、利用者本位の選択制に。あと、ご利用者さんにウケたのがカップラーメンDAYです。施設に入ると間違ってもレトルト食品やカップヌードルなんて出しません。栄養計算された食事がメイン。でも、普通の人間の生活って、パン一個と牛乳だけでもいいという気分の日もありますよね。それはお年よりも同じはずなんです。食堂に色々な種類のカップラーメンを並べてお好きなものをどうぞ、って。それだけじゃ栄養が補えないのでバナナにコンデンスミルクをかけたものも添えたり。これが好評でした! 「カップヌードル、懐かしいなぁ」って。当たり前に世の中にあるものなのに、懐かしいってしみじみ見ているんですよ。私たちの勝手な思い込みは取り払って、発想の転換をしていく…「出来ない」じゃなくていかに「出来る」ように創意工夫していくかが私たち介護に携わる人に求められている仕事のひとつだと思います。
ご利用者さんと楽しく会話する下遠野さん。ご利用者さんも嬉しそうです。
―なるほど。多くのの心身的ジレンマを抱えつつも試行錯誤された特養時代の13年間だったわけですね。下遠野さんにとって多くの学びと気付きがあった、かけがえのない場所だったと想像します。
私の原点ですね。ヘルパーステーションを立ち上げたときも当時の先輩・後輩がたがお祝いにかけつけてくれましてね。人の輪ってすごく大事だし有難いなぁと。私をここまで育ててくれたことに感謝しつつ、いつまでも初心を忘れずにいたいです。